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特別支援学校編

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知的特別支援学校での実践事例です。「触れると動く」という直感的な反応を入り口に、因果関係の理解から意思表示、メタ認知、コミュニケーション、生活動作までを、週1回の自立活動の中で広げています。重度のお子さんに「自分で伝える・選ぶ・気づく」をどう引き出すか——その具体的な手立てが詰まっています。

施設プロフィール

  • 種別:知的特別支援学校(小学部〜高等部・小規模校/全校40名規模)
  • 対象:大半が知的障害、一部に知的障害と肢体不自由の重複
  • 研究テーマ:ICTを活用した授業改善・校務の効率化(取り組み4年目)
  • 主な活用場面:週1回の自立活動

導入のきっかけ:端末はあるが、重度の子に届かない

GIGAスクール構想で1人1台端末が普及し、ロイロノートやGoogle等のアプリも導入されました。「話すのが苦手な子が、考えをまとめて発表する」「事前に録音して再生する」といった手段は獲得できた一方で、より重度のお子さんには既存アプリが難しいという壁がありました。

そこで、勉強会でデジリハの存在を知り、「因果関係の理解」や「表現手段の獲得」を支える選択肢として導入を検討。特別支援学校は無料で利用できる枠があり(センサーは購入)、まずデモから始めました。きっかけとなったのは、言葉や感情の表出が難しく、提示されたものから選ぶことも、タブレット操作も難しい小学部のお子さんでした。

ねらい別の使い分け

ねらいアプリ/センサー工夫のポイント
意思表示・選択空の水族館(HOKUYO)興味の様子を学級通信に掲載。指差しからタブレット選択へ
自己客観視(メタ認知)忍者でドロン+動画撮影プレイを撮影して一緒に振り返る
目標設定・自己調整忍者でドロン出現スピード設定で「ちょうどよい目標」を考える
順番・依頼(SST)左右の担当分け/いたずら坊主交代、「お願いします」、待つ
生活動作につなぐMoff系(ゆっくり運ぶ)感度高め、カートで配膳、揺れを視覚化
重度・重複への導入HOKUYO中心座位でタッチ。装着を嫌がる子は物に仕込む

「触ると動く」から意思表示へ 主体性 関係性

アプリ「空の水族館」の触ると何かが動く反応に、強い興味を示した小学部のお子さん。その様子を学級通信に載せて教室に掲示したところ——

通信の写真を指差して「デジリハをやりたい」と支援者に伝えてきました。人を直接その場所へ連れていくことはあっても、何かを経由して気持ちを伝えるのは初めて。すごい変化でした。 — 担当教員

この経験は、タブレット上で何かを選択する学習へと発展し、表現手段の獲得につながりました。

なぜ大きな一歩なのか:「写真(記号)を指して要求する」のは、目の前にない物事を媒介して意思を伝える行為。要求手段が「人を引っぱる」から「記号で示す」へと進んだことを意味し、コミュニケーション発達の重要な節目です。

自分を客観的に見る 主体性

視線入力で「忍者でドロン」をプレイする様子を動画に撮り、後で一緒に見返したところ、本人が「右ばかり見て左を見ていない」ことに気づけました。視野の狭さがあり、これまで自分を振り返ることが難しかったお子さんが、実際の姿を映像で見て振り返る学習につながっています。

「やっている自分」を外から見る(メタ認知)のは、抽象度の高い学習です。プレイ動画という具体物があることで、「あ、ここを見ていなかった」と自分で気づける足場になります。

ちょうどよい目標を、自分で考える 主体性

「忍者でドロン」は、出現スピードを上げるほど高得点を狙える一方、逃すと点が下がります。これを使い、「自分にとって適切な目標はどのくらいか」を考える学習に。背景には、高すぎる目標で落ち込んでしまう子や、失敗を避けて頑張らなくても達成できる目標を立てる子がいます。点数というフィードバックを通じて、楽しみながら「自己調整」を練習しています。

順番・依頼でコミュニケーション 関係性

交代でプレイする、左右の出現で担当を分ける、「お願いします」と依頼する——こうした関わりをゲームの中で自然に引き出します。ロールプレイ(「こういう時は人に頼みます」)では子どものやる気が出にくい場面でも、プレイしながらだと自然に依頼が生まれます。「いたずら坊主」の「1・2・3で3になった時に」といった仕掛けは、「待つ」練習にもなります。

偶発を、意図的な学びに:小学部と中学部の自立活動が金曜2限でたまたま重なったことから、年齢の違う子ども同士で「順番」「交代」を学ぶ場が生まれました。当初は狙っていなかったものの、「ちょうどよい学習の場」として今はルーチン化しています。授業をただ見ただけでは何の学習か分からないほど、自然に学べているのが特徴です。

生活につながる動きの学習

Moff系センサーの感度を高く設定し、カートに乗せた物をゆっくり運ぶ学習に。揺れると反応する仕組みを逆手に取り、「揺れたら(視覚的に)気づく」ことで、自分がどのくらい揺れているかを確認します。校内では高等部が多く、給食の配膳でトレーを運ぶ機会があるため、そのまま生活動作(こぼさず運ぶ)につなげています。デジリハをきっかけに、自立活動の時間割の札を自分から持ってくる、という意思表示が芽生えたお子さんもいます。

重度・重複のお子さんへの工夫

センサーを腕や足に着けると、すぐに外したくなってしまうお子さんには、装着にこだわらない工夫を。

  • 好きなぬいぐるみの中にMoffを仕込む
  • 好きなボールにつけて転がして反応させる
  • カーテンレールから紐でセンサーを吊るし、鈴など音の出るものと一緒に揺らす

HOKUYOを中心に、座ったままプレイできる形で取り組みます。なお、Leap Motionは感度を調整しても、「曲げる動き」と「反応」の因果関係を結びつけて理解するのは難しい場面があり、重複のお子さんにはHOKUYOが扱いやすかったとのことです。

セッティングの工夫(影問題など)

プロジェクター投影でよく出る「影」の問題。高い位置にしても影は出てしまい、単焦点で真下から投影すると眩しさ・センサー反応の低下・光刺激(てんかん発作)のリスクがありました。

解決:離れた場所からボールを当てる

椅子に座り、少し離れた場所からボールを投げて当てると反応する形に。何回か取り組むうちに、影が出ても「当たれば反応する」意味が分かって取り組めるように。「待っているのに出てこない」のは自分の背中に映っているからだと気づき、体を動かす姿も見られました。教員体験では「影が気になる」という声が多かったものの、実際の授業では子どもも教師も、だんだん気にしなくなったそうです。

  • 設置場所の変遷:会議室(使うたびに機材移動・再設定が大変)→体育館ステージ(夏は暑く冬は氷点下)→最終的に使っていない空き部屋へ常設。
  • 高さ:専用の高い台がなく、今ある台を重ねて固定。勾配天井のため天吊りは断念。
  • センサー位置:後付けの壁の上部にできた隙間を利用し、板を1枚置いてセンサーを壁より少し前に出す。これにより、速い勢いのボールでも反応しやすくなった(壁ぴったりだと、当たる瞬間に跳ね返ってセンサーが反応しないことがある)。※推奨外の工夫のため、安全に配慮のうえで。

現場に広げる工夫 学び合い

多くの教師が使えるよう、研修で体験会を実施。「映像に触ると反応する」「手の動きを追う」「揺らすと反応する」を体験してもらい、どんな学習が作れるかを話し合いました。アイデアが多数出て、自立活動の一つの選択肢として定着。学校祭での体験会、校内での事例の蓄積、効果の分析にも取り組んでいます。

「今ある教材・機材からどんな学習を組み立てられるか」を考えることこそ、特別支援学校教員の強み。導入当初から「全員に効果的とは限らない」前提でスタートし、1人でも2人でも合う子がいればという姿勢、そして「こういうアプローチもある」と引き出しを増やす意味で広げています。

他校・他職種からの声 学び合い

  • 肢体不自由校:Moffから始めたが因果関係に気づきにくい子も。最終的にHOKUYOで「壁を手で触る」「棒を持って動かすと壁が反応する」が良い刺激になり、自発的な動きが出てきた。Moffをスイッチ代わりに「触ると卵が割れる」を繰り返すうち、因果関係がつながる場面が今年度だけで2〜3回。
  • 理学療法士(PT):プリント学習では集中が続きにくい子も、「またやりたい」と何週間も継続でき、それが成果につながっている。短期的な視点でも有効。
  • 独歩できる知的寄りの生徒の担任:じっと待つのが苦手な3人が、自分の番をしっかり待てる。アプリを自分で選べると嬉しそうにし、HOKUYOで画面に触れて変化があった瞬間に喜ぶ。興味関心と自発性が増えている。

この事例から学べること

  • 「触ると動く」因果関係は、要求・選択・意思表示という発達の節目への入り口になる。
  • プレイ動画や点数といった具体的なフィードバックが、メタ認知や自己調整という難しい学習の足場になる。
  • 順番・依頼などのSSTは、ロールプレイより遊びの中で自然に引き出すと定着しやすい。
  • 影・設置の課題は、「投影をやめる」のではなく使い方(離れて当てる等)で乗り越えられる。
  • 現場に広げる鍵は、「全員に効く」を求めず、教師の引き出しを増やす研修と事例の蓄積。

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