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重症児編

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重症心身障害のあるお子さんへの実践事例です。「自ら意思を発する機会が少ない」「ケアやストレッチで受け身になりがち」——そんな日常の中で、視線・タッチ・音といった小さな反応を成功体験に変え、意思決定支援からリハビリ、コミュニケーションまでを広げてきた記録です。

施設プロフィール

  • 種別:重症心身障害児の児童発達支援・放課後等デイサービス(卒業後を見据えた生活介護も併設)
  • 対象:1歳〜高校3年生。医療的ケアの必要なお子さんが多い
  • 体制:看護師による医療的ケア、リハビリ、入浴、療育、保育、訪問支援、訪問看護、相談支援 など
  • 設置:個室ではなく、みんなが通るオープンスペースに常設

導入のきっかけ:意思決定支援の入り口として

「意思疎通支援」「意思決定支援」が重要とされる一方で、重症心身障害のあるお子さんは、自ら意思を発する機会が少なく、ケアやストレッチで受け身になりがちです。そこで「楽しいことから意思決定支援を始めよう」とデジタルツールの活用を開始。まず視線入力に取り組んだところ、画面の前に座るとパッと覚醒して真剣な表情になる姿が見られ、可能性を感じたと言います。

当初は「発達障害のお子さん向けでは?」という印象もありましたが、調べるうちに重心施設でも導入されていること、小さな動きでも設定次第で使えること、大きな画面で視覚・音のフィードバックが得られることが分かり、導入に至りました。

センサー・アプリの使い分け(ねらい別)

ねらい・場面使うもの工夫のポイント
意思表示・選択視線入力/スイッチ/Moff「もっと」「おいしい」「終わり」を選ぶ。出た動きをすかさず褒める
覚醒・注目を促す視線入力/HOKUYO画面の前で覚醒。手を伸ばす促しを支援者が添える
音・触覚のフィードバックMoff「キラキラジュエリー」を音で。補聴器・イヤホン・振動も併用
重心移動・歩行準備HOKUYO(忍者でドロン)左右のみ出現に設定。姿勢を変えて交互の動きへ
バランス・抗重力HOKUYO+座面調整座面を少し不安定に。忍者を高い位置に出してリーチ
立位保持HOKUYO+リフト/スパイダー胸とズボンで支持し、遊びで立位時間をのばす

遊びがリハビリになる:運動の引き出し方 主体性

因果関係(触れる→変わる)が理解できるお子さんには、リハビリ的な使い方も。

  • 左右の重心移動:「忍者でドロン」を左右のみに出現させ、少しずつ間隔や数を増やして、左右への重心移動を引き出す。姿勢を変えながら交互の動きをつくり、歩行につなげていく。
  • バランス:座面を少し不安定にして、保持しながらプレイ。足を踏ん張れるお子さんには忍者がとくに有効。
  • 抗重力・リーチ:体幹を安定させた状態で、忍者を高い位置に出現させ、高さのある運動を引き出す。「ダメになるまで遊んでいた」というほど集中するケースも。
  • 立位保持:股関節術後で立位を取ってほしいお子さんが、遊び始めると20分以上飽きずに立位で過ごせた。普段は立位を取らないお子さんも、介護用リフトにスパイダー用ベルトをかけ、胸とズボンで支えて立位保持に(安全に配慮のうえで)。

なぜ続くのか:「立つ・動く」が目的化すると受け身になりがちですが、遊びの中では本人の「やりたい」が原動力になります。同じ立位保持でも、集中して取り組める時間がまったく変わります。

小さな反応を見つけ、意味づける 主体性

重症心身障害のあるお子さんの支援で最も難しいのは、「その子の表現がどこに出るか」を見極めること。この施設では、次のプロセスを大切にしています。

  1. 身近な人に聞く:保護者や他事業所から「選びたい時にぎゅっと握る」「親指が動くことがある」といった情報を集め、注目する動きを絞る。
  2. その動きにセンサーを合わせる:親指の動きに反応するようスイッチやMoffを設定。
  3. 出たらすかさず褒める:「これやりたいんだね」「今、光ったね」と即座にフィードバックする。
  4. 続ける:覚醒状態や姿勢に左右されるため、出ない日も多い前提で根気強く。
たまたま手が動いただけでも「すごいね、手が動いたね」と返す。何かを問いかけた時の動きなら「そういうことなのかな」と意味づけて返す。それを続けると、本人が「これが自分の意思表示として伝わった」といつか気づき、だんだん強化されて確実な動きになっていきます。中学の頃はほとんど手が動かなかった子が、数年かけてスイッチを押して戻せるようになりました。 — 同じお子さんを5〜6年見てきた支援者

「いたずら」が意欲になる 主体性

「びしゃびしゃパニック」や「いたずら坊主」のような、少しやんちゃなアプリが大好きというお子さんは少なくありません。褒めるより「嫌がる」リアクションが楽しい、という気持ちを引き出します。

実は「いたずら坊主」は、モデルのお坊さん本人が「身近に感じてほしい」とスポンサーになって生まれたアプリ。「びしゃびしゃパニック」は、体が動かしにくくてもいたずらができるように——指1本でいたずらできる世界観を、という想いから作られたものです。「教育的でない」遊びが、強い動機になることがあります。

セッティングの工夫

  • 床への投影:視線入力台に乗せて一番高くし、床に投影。床投影は、くじをタッチして別の子に向かって走らせるなど子ども同士のやり取りが生まれやすいのが利点。座る・床に慣れたお子さんに向く。一方で、プロジェクター位置や影の出方が難しく、キャリブレーションに20分ほどかかる。常設でコンスタントに床投影できる施設はまだ少ない。
  • 合間の時間を活かす:注入やうつ伏せ、入浴など医療的ケアの合間に短時間プレイ。とくに注入の「待ち時間」を予備の活動時間に変える発想で、発達の機会を逃さない。

集団と横のつながり 関係性

個別が中心ですが、イベント的に集団でも活用します。

  • Moffの「飛び出せベイビー」で、卵を割らないよう感度を調整してみんなでリレー。最後まで割らずにいけたらクリア。
  • 「のびのび双葉」で、職員が後ろからMoffを振り、子どもたちと画面を見ながら「せーの」で動かす。
  • 注入の時間に、きょうだいで来ている子を「お兄ちゃんだけ楽しいことしてるよ、見に行こう」と誘い込み、水鉄砲だけ持たせて疑似体験させるなど、周りを巻き込む関わりで横のつながりをつくる。

集団での注意点:HOKUYOで「混ぜると変わる」のような絵を複数人で同時に触ると、反応しにくくなります(一人が触っている間は他が反応しないことがある)。集団では、同時タッチが前提のアプリ選びに注意が必要です。

支援者の関わりがいちばん大事 関係性

デジリハはあくまでツール。「自ら触りたい・やってみたい」を引き出すのは人の関わりです。モンスターが怖い子には「みんなでやっつけるぞ」、キラキラジュエリーでは「降ってきた宝石をキャッチするからキラキラしてね」と歌いながら——スタッフが少し演じることを大切にしています。「スイッチオンで、はいどうぞ」のツールではない、という姿勢です。

効果の見える化と、施設としての歩み 学び合い

生活機能評価の国際指標PEDIのコミュニケーション項目で変化を追跡。数字で表れることで、保護者にも喜ばれ、学会発表にもつながっています。各ゲームの得点を競う「大運動会」のような月間企画も。

導入のきっかけは展示会での出会い。「専門家が来て高い費用を払う」のではなく「誰でもできる」「地方でも関係なく取り組める」点が決め手でした。地域に重い障害のお子さんの受け入れ先がない時期に引き受け、スタッフがまず楽しんで盛り上げてきた結果——

「何もできない、1歳児の部屋で寝かされていたんです」というお子さんが、今は大声を出して笑う。いろいろなものに触れている積み重ねの成果だと感じています。 — 運営スタッフ

この事例から学べること

  • 重症児支援では「アプリ選び」より、その子の表現がどこに出るかの見極めと、出た反応への即時フィードバックが核になる。
  • 同じ運動課題でも、「遊び」にすると本人の意欲が原動力になり、集中時間が大きく変わる。
  • 医療的ケアの合間時間こそ、発達の機会になりうる。
  • 効果はPEDIなどの指標で見える化すると、チーム・保護者の納得と継続につながる。

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